優れた技術力を誇る日本の化学系企業が、競い合いながら、また同時に協力し合いながら、カーボンナノチューブの実用化を推進しています。この分野の世界最先端の技術とその用途・成果につき、この技術の発展に日夜邁進されている技術普及の第一人者、上野光保さん(S45年卒:関東支部支部長)に現状を語って頂きました。 ビデオ動画や写真を多く使用して、文系の聴衆にも解り易く説明をして頂き、カーボンナノチューブがあらゆる分野で活躍する将来を、容易に想像することができました。
日 時 : 1月24日(土)15時~17時
場 所 : SCB52階会議室
講演者 : 上野 光保 氏 (S45年卒)
演 題 : 「明日の生活を変えるカーボンナノチューブ」(1mmの百万分の1の炭素材料)
講演内容 :
カーボンナノチューブ(CNT)は炭素のみからなる特別な構造の材料である。カーボン原子が立体的に重なり合うとダイヤモンド、六員環で平面的に並ぶとシート状のグラファイト、その六員環シートに五員環が交じるとサッカーボールのような球状となりフラーレンという物質になる。
カーボンナノチューブは一様な平面のグラファイト(グラフェンシート)を丸めて円筒状にしたような構造で、1mmの100万分の1程度の大きさであることからカーボンナノチューブ(CNT)と呼ばれている。その筒が単層の場合はシングルウォールナノチューブ(SWNT)、多層のものをマルチウォールナノチューブと言い、二層のものはダブルウォールナノチューブとも呼ばれている。
その製造はCVD法の一種のDIPS法が一般的に用いられ、触媒を使用して反応促進剤と炭素原料を霧状にして高温の加熱炉の中で気相流動法によって造られる。アルミニウムの半分の軽さ、鋼鉄の20 倍の強度、しなやかな弾性力を持ち、スポーツ用具としても応用が進められているが、将来は「宇宙エレベータ」として、宇宙ステーションを地球に繋ぎとめるロープ素材として使うことが期待されている。
また、構造によって電気伝導率が変わり、半導体のような使い方もできるが、銅の1,000倍の高電流密度耐性、銅の10倍の高熱伝導特性があり、また、金増銅と共存すると極めて高い導電性を持つなど、これらのユニークな電気特性から、電子回路や燃料電池への応用も期待されている。さらに、単層カーボンナノチューブは高い比表面積を持つため、表面に極微量のガスが吸着するだけで物性が大きく変化、これにより高感度のガスセンサー等への応用も期待されている。
昨年は、15歳の少年が、網構造を持ったカーボンナノチューブに抗体を織り込み、検体と混ぜた液中に特殊な試験紙を入れて浸して乾かすことで、画期的なすい臓ガンの検査方法を開発したりと、カーボンナノチューブの応用で極めて多様な分野での成果が期待されている。
(報告者:河崎定信 関東支部事務局長)
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